2012年7月23日月曜日

Snow White & The Huntsman


Snow White」観に行った。ネタバレは自重しない。

正直、期待はずれだった。
期待しすぎた。
駄作と言うほど悪くはないが、良作とは言い難い。
1000円で観る分には良いけど、1800円で観たら金返せと言いたくなる。
そんな感じ。
ちなみに私はカードのポイント使って500円で観た。

それでも前半部はそれなりにワクワクしたし、おもしろかった。
王国が悪の女王に籠絡される過程とか、幼い白雪姫が囚われて幽閉されるところとか、ベタだけど見応えがある。
美しい娘に成長した白雪姫が女王の企みを察知して、動物たちの手を借りつつ知恵と体力で脱獄するところもなかなかだった。

でも白雪姫暗殺を命じられた狩人が、白雪姫に寝返って女王に獣の内臓を捧げるシーンは削ってほしくなかったなぁ。もちろんこの白雪姫は原作やディズニーアニメとは別物なんだけど、「魔法の鏡」「毒リンゴ」と同じくらい「狩人の裏切り」は白雪姫の重要なモチーフだと思うんだ。
いや、この作品にも狩人は出てくるんだけど、違うんだよ。獣の内臓を捧げて女王を出し抜く部分が重要なのだよ。まあ私の趣味だけど。

狩人と王子の三角関係が微妙だったなー。
まず王子が空気過ぎる。いや、彼は頑張ってたんだけどね。王国一の弓の名手であることを活かして、白雪姫追跡隊に潜り込んでさ。命がけで姫を守ってさ。カッコイイじゃん。まさしくヒロインの相手役にふさわしいじゃん。
そして当然、狩人もカッコイイよ。彼もヒロインの相手役として不足はない。
だから白雪姫の選択には「狩人を選んだ理由」と同様、「王子を選ばなかった理由」が必要だと思うんだけど、それがないせいで王子が空気だった。
「魔法にかけられて」はそこら辺がちゃんと描かれてて素晴らしかった。王子を魅力的に描きながら、姫が「王子に憧れる少女」から卒業して大人になってしまったことを劇中でちゃんと説明していた。

まあでも恋人の選択に理由がないのはリアルだってことで妥協しよう。遠く離れた幼なじみの男の子より、最近よく私を守ってくれる男に惚れるのは良くある話だ。しかしそれならそれを貫いてほしいんだよね。王子と再会した段階で既に白雪姫が狩人に惚れてた、とかさ。
でも白雪姫は王子にも惚れてるよね?王子のリンゴを食ったのは惚れてたからだよね?なのに王子のキスでは目覚めなかった。つまり白雪姫にとっての王子は「王子」ではなかったってことだ。じゃあなぜリンゴを食ったんだ。リンゴの呪いに王子本人は全く関与していないのに。食ったならなんで目覚めないんだ。食うなら起きろ。起きないなら食うな。

いや、製作者はそこまで考えていないと思うよ。だからこそガッカリ。「王子のリンゴを食べる」というオリジナルを創出しておきながら、それをぞんざいに扱う製作者の「わかってなさ」にやきもきする。

で、狩人の白雪姫に対する想いの変化も納得できない。
変なガキ拾っちまったな→命を掛けて君を守る!
というベタな展開を、「魔法にかけられて」や「塔の上のラプンツェル」はものすごく丁寧に描いていて、感動したんだよね。
でも「Snow White」は全然ダメ。全く伝わって来ない。ここが「ディズニー作品」と「似非ディズニー」の違いか。
奥さんを亡くした男が、ただの小娘を大人の女性として見るようになるには、それなりの過程が必要だと思う。そこを丁寧に描かないと感情移入できない。それがなくちゃ単に節操のないオッサンだ。

まとめると主要キャラ3人に関して、「姫の心境の変化が杜撰」「狩人の心境の変化も杜撰」「王子が空気」ということだ。

「姫の心境の変化が杜撰」なのは王子から狩人への乗り換えだけでなく、逃亡から復讐への転換でも感じた。

トロールやシシ神様とも心通わせる聖少女が、闘志を燃やし殺戮をも厭わない女になる。

これってさ、今までの「白雪姫」にはないオリジナル設定だよね?ここが書きたかったんだよね?CMを観て私は、「ブラック・スワン」みたいな白雪姫のダークな脱皮を期待したんだよ。

でもそんなものはなかった。ダークな脱皮も成長もなかった。
リンゴ食って死んで、狩人のキスで起きたらそうなってた。
一度死んで蘇るという、心理学的になんとでも蘊蓄がつけられそうなネタだったのに……もったいない。

「殺されたくない」から「殺してやる」への変化が描かれなかったので、目覚めたら急にジャンヌダルクばりの演説を始めたのにはびっくらこいた。

白雪姫「我は女王を倒す!我に続け!」
群衆「うおおおおおおお!!!!!」
私「ええええええええ???」

展開によってはすごく血湧き肉踊るシーンだったのに……もったいない。
こんなんだったら、監禁生活の間中「いつか父の仇を取ってやる、女王を殺してやる」と闘志をたぎらせていた方がまだ整合性があったよ。

「我に続け!」が英語で「Who is my brother?」って聞こえた。
我の兄弟は誰だ→我の同志は誰だ→我の同志よ、共に行こう→我に続け!
英語のこういう表現がかっこいい。

城攻めも力押しでなんだかなぁ。
せっかく白雪姫には動物と交感したり、傷を癒したりという不思議パワーがあるんだから、それをうまく活用してほしかった。
つーか、あれで勝てるなら白雪姫の有無関係ないよね。早くやればよかったのに。
勝てないから今まで女王に蹂躙されていた。
白雪姫が加わったことで勝算が生じた。
だから決起したんだろうけど、その「勝算」が全く描かれてなかった。
仮に「勝算もないのに、発狂状態の白雪姫に乗せられて特攻した」だとしたら、それこそお粗末すぎる。

これ、「アバター」でも感じたなぁ。青肌族が愛と根性で人間に勝ったんだけどさ。これって「不思議パワー設定がもったいない」ってのもあるだけど、力押しだと単なる戦争になっちゃうんだよね。女王VS姫の戦争で、善悪がない。どっちもどっち。

そもそも白雪姫を「穢れなき純粋な心」と評してるけど、白雪姫めっちゃしたたかやん。女王の弟を出し抜いて脱獄したり、狩人と取引したり、めっちゃ世の中知ってるやん。
いや、私はそういうヒロイン割と好きだよ。「魔法にかけられて」も「ラプンツェル」もそうだった。でもこの2作品はヒロインを「穢れなき心」とは言わなかったと思う。他人の下心を見抜き、それを利用して自分に有利に物事を進めるのは、「悪」ではないけど「清らか」とも言い難いだろう。

あと最後の女王との一騎打ちもダラダラしてテンポが悪い。くんずほぐれつ、殴ったり殴られたりしつつ、その流れで何となく白雪姫が女王を刺した感じ。
もっとこう、頭を使ってさ、アッと言う方法で逆転してほしい。狩人に教えてもらった護身術を出すことで伏線回収したつもりなのかね。

しかも、不死身設定の女王をなぜ白雪姫が殺せたのか。
うん?白雪姫の不思議パワーのおかげでしょ?わかるよそのくらい。
しかしさ、「女王を殺せるのは私だけ」と言ってはいたけど、本当にそのままの意味だったとは。もうちょっと捻りようがあるでしょ。
「女王に物理攻撃を当てられるのは私だけ」って意味に過ぎないんだとしたら、それはそれで伏線を立てておくべき。白雪姫の不思議パワーはそれまで「動物と話せる」「傷が癒える」など「聖なる力」っぽいのだけだったので、「女王を物理的に殺せる」っていう能力だけが異質。もっとこう、ベタにさ、聖なる力で悪を討ち滅ぼすとかさ、そういうのが良かったな。
「白雪姫の聖なるイメージを敢えてダークに塗り替えてみました!」でも良いけどさ、それにしても「女王と戦ったらギリギリ勝てた」じゃあなんとも盛り上がりに欠ける。圧倒的脅威に対して、知恵なり特技なりを使って打ち勝つ、そういう展開がいいんだけどなぁ。

それで刺した後、「女王は出血することで魔力を失うのだ」って言ってたけどさ、その設定いらないよね。後出しもいいとこだ。
女王を刺す→出血→魔力失う→女王死ぬ
より、
女王を刺す→女王死ぬ
の方がスマートじゃん。
もし「血」とか「心臓」とかが重要なら伏線を張るべき。序盤の血が滴るシーンや、「心臓が欲しい」って言ってみたり、捕虜の心臓抜いたり、製作者は伏線張ったつもりかもしれないけど、そういうのじゃないんだよなぁ。少なくとも「なるほど!女王を出血させれば良いのか!白雪姫あったまいい〜」とはならなかった。

ディズニーは毎回とどめの刺し方がうまいよね。ラプンツェル然り、アラジン然り。白雪姫もディズニーのはよかったな。美に執着した女王が醜い老婆のまま自滅するとかさ、カタルシスだったよ。

まあそんな感じでいろいろ惜しいけど、雰囲気は悪くなかった。「良いシーン」をつぎはぎにしたような印象。要するに「ジャンヌダルクっぽい白雪姫って新しいでしょ?」って言いたかったんだな。

映画館で観るほどでもないけど、テレビで観たらなおさらつまらない、そういう作品だった。

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