2010年12月28日火曜日

SPACE BATTLESHIP ヤマト


正直舐めてた。アニメの実写化というだけでもハズレのかほりがぷんぷんするのに、しかも邦画でSF。お粗末なグラフィックとアニメが劣化したストーリー展開をしこたま人気俳優を使うことで誤摩化す、というシロモノかと思ってた。
でもCGがすごいと聞いたので、迫力ある映像を映画館で見るために、ストーリーには全く期待せずに見に行ったわけだ。

面白かった。本当に面白かった。今までで一番いい映画だった…かどうかは今まで見た映画を思い出してみないと言い切れないけど、でも観賞後瞬間的にそう思ってしまうほど、良かった。少なくとも『映画館で観て良かった映画ランキング』では堂々の一位。エンドロール中、このまま居座ってもう一回観てしまおうかと思うくらい素晴らしかった。

以下うっすらネタバレを交えつつだらだら感想を書いていこうと思うのだが、一言で言えば「熱かった」。血湧き肉踊る作品だった。
この映画はネタバレなしで観ることをお勧めしたいので、観たことない人は読まないでね!そして是非とも映画館に行ってください。

・グラフィック
前評判に違わず、すごい迫力だった。宇宙戦艦ヤマトの大きさに圧倒されたし、スピーディーな宇宙戦も波動砲のエフェクトも「映画館で観て本当によかった!」とおもった。
そんな「最先端のCGを駆使した視覚効果」と共に感動したのが、「全体になんとなく野暮ったいデザイン」。
例えば最近のハリウッドのSFなんかだと、全体に曲線的でつやつやぴかぴかしててスタイリッシュなデザインが多いけど、ヤマトは違う。原作の「戦艦大和」を模した画が現代の技術でさらに精緻に描き込まれると同時に、他の艦や戦闘機も一昔前の直線的なメカメカしいデザインを採用してる。そこが熱い。
クルーのコスチュームもなんとなくださいというか、昭和風味。あと特筆すべきは「薄汚れている」という点。ヤマトの窓とかちょっと煤けてて縁の方に汚れが溜まっているし。艦内もなんとなく暗いし。コスチュームも新品じゃなくてだいぶ着こなれているように見えたし。ハリウッドの「どれだけ使っても新品同様の施設」、「煌煌と明るい艦内」とは一線を画していた。単にスタイリッシュで美しいものよりも、少々古くてある程度使い込まれている方が心に響くのは、日本人の特徴だろうかね。原作を知らず、ヤマトにノスタルジーのかけらも感じない私ですら、その無骨さに胸打たれてしまう。

・配役
ネット評なんかを見ると、キムタク古代には賛否両論ある。「あんなの全然古代進じゃない、単なる『キムタク』だ、女どもはキムタク目当てで観るんだろうがヤマト世代の自分にとっては最低のキャスティングだ。」なんて意見もある。でも単なる女子供向けなら、キムタクはいささか薹が立ちすぎてると思うんだよな。原作の古代進はもっと若いだろうし、ヒロイン森雪とのバランスを考えても女子供の餌になるような若い俳優はいくらでもいると思う。餌というか、若くて本当に優秀な俳優はたくさんいる。でもその中であえてキムタクなのはやっぱり単なる女寄せじゃないと思うんだよね。私も観ていて「キムタクは何演じてもキムタク風味だなあ」と感じたけど、それは制作者の意思だと思う。「古代進」のキャラクターをキムタクの大根演技が壊してしまったのではなくて、そもそもこの「実写版古代進」にぴったりだったのがキムタクなんじゃないかと。それが嫌だという人にとってはこの映画は駄作なんだろうけど、私は今回の古代進のキャラは好きだし、それを演じられるのはキムタクしかいないと思った。
脇を固める豪華俳優陣もさすがだったな~。
初めの堤さんのシーンですっかり心をつかまれてしまったよ。かっこよすぎる。
柳葉敏郎もよかったなー。しゃべり方をヤマトの声優に似せてた。
沖田艦長の山崎努はさすがの貫禄だったし、機関長の西田敏行もはまってた。
あと女性がかっこよかった。原作ではいかにも「男たちのドラマ」って感じで、戦闘員はすべて男、ヒロイン森雪は看護師だったらしいが、今回森雪は優秀な女戦士だし、ほかにも何人か原作では男性だったのが女性に変わっていた。男くささにノスタルジーを感じる人には不満かもしれないけど、私はすごくよかったと思う。現代のSFなら女性クルーがいないのはむしろ不自然だし。世界中で上映するつもりならなおさら。右手に一升瓶、左手に愛猫を抱える女医とかさ、原作とはまた違った趣でカッコイイと思うよ。有能なオペレーター相原が女性なのもよかったなー。切れ者なんだけど、女性特有のやわらかさがいい味出してるというか。そう、闇雲に男を女に置き換えるんじゃなくて、それなりにジェンダーを踏襲しており、女性があくまでも女性らしい点が受け入れやすくてうまいと思う。森雪は原作では男性の憧れとしての女性として描かれていて裸担当(?)だったらしいが、今回は女だてらに戦闘員のトップで、現代のヒロイン!て感じが良かった。

・ストーリー
まったく期待しないで観たせいか、予想外のできのよさに感動した。突っ込みどころは少なくないが、『アバター』とか『アルマゲドン』とか『スターウォーズ』と比較したらかなりちゃんとしてる。いや、私スターウォーズはエピソード1、2しか観てないんだけどね。
物語中の仕掛けが結構練られていて、前半にちりばめられた伏線が後半でどんどん回収されて、全体としてよくまとまっていた。かといって複雑ではなく、わかりやすいというか、ある意味ベタなんだけどそのお約束感が逆に心地いい。さりげなく語られた古代の経歴が、最後ああいう形で生かされるとは!ネタばれになるけど「コスモ■■」が出たときは鳥肌が立ったよ。
イスカンダルと地球を往復するっていうストーリーの根幹からしていいよね。イスカンダルに行くことじゃなくて、地球に帰ってくることが目的なのがさ。住めなくなった地球を脱出し、新天地へ!というSFは少なくないけど、選ばれた人間を救うノアの方舟ではなく、その他大勢の人類を救うためにヤマトを使うところが泣けるなぁ。原作観ようかな。沖田艦長の「この艦を私にください」って台詞にしびれた。

ひとつけちをつけるとすれば、森雪をもっと掘り下げてほしかった。古代とのラブシーンとかさ。いつの間に森雪が古代進に惚れたんだかわからんし、古代進の気持ちはもっとわからん。あれじゃあノリで抱きしめ雰囲気でキスし勢いで押し倒したようにしか見えない。もうちょっと二人の感情は丁寧に、説得力ある形で描いてほしかったし、尺が足りないならいっそラブシーンはなくしたほうが良かったんじゃないかな。この非常時にべたべたいちゃいちゃされるよりも、お互い淡い恋心を抱きつつそれより大きな信頼関係でもって、共に人類のために戦ったほうが泣かせると思う。まあそれは私の趣味だけど。
同じように、映画終盤の古代と森雪のシーンはどうかと思った。てめーが生きて帰るのはてめーのためじゃなくて地球のためだろが。なに「あなたが死ぬなら私も死ぬ」的な流れになってんのさ。あんたの死イコール人類滅亡なんだから、そうやすやすと死んでもらっちゃ困る。
いや、もともと感情に振り回されがちな女の子なら納得できるんだけど、なまじ初めの方は私情より使命を大事にする凛とした女性だっただけにさ。自分や仲間の命より人類を救う!という姿勢を貫いてほしかった。古代との愛が彼女を使命よりも愛に生きる愚かな女にしてしまった、ということならそれでもいいんだけどさ。それならそうと、そこらへんの動きをもう少しわかりやすく描いてほしかったなぁ。あれじゃあ単なる気分ムラが激しい女だよ。

ガミラスという存在は原作とは全く違ってたみたいだね。原作では要はデスラー総統率いるガミラス人VS人類という構造で、舞台は宇宙であれど内容は戦争モノの域を出てなかったと思うのね。でも現代のSFで敵が「人間味あふれる悪役」というのはそぐわない。そこでガミラスとは何らかの集合意識体であり、全にして個、個にして全、彼らは自らを「デスラー」と称する…という設定にしたんだと思う。これはこれで今どきのSFにはありがちだけど、ヤマト懐古ファンだけでなく世界の観客に見せるんだったらこの改変は間違いではないと思う。その意識体がクルーに乗り移り、クルーの口を借りて意思伝達するのも、何の疑問もなく日本語をしゃべるデスラー総統より説得力があった。インディペンデンスデイっぽい。というかむしろ今回デスラー総統いらなくね?敵の得体は知れないほうが恐ろしいんで、デスラー総統がガミラスの正体や攻撃の意図を懇切丁寧に説明する必要はないと思うんだけど。まあ「ヤマト」を冠した作品で「デスラー」を全く出さないわけにはいかんだろうから、ああいう形に落ち着くのは納得。原作と同じ伊武雅刀の声で「ヤマトの諸君」なんて言われた日には感涙咽ぶファンも多かろう。

この映画は原作同様?たくさん人が死ぬんだが、一人一人の死に重要な意味があるところが良い。
「ここは俺が楯になるから、お前は生きて地球に帰るんだ!」「やめろ○○!」どかーん!→○○死亡
というお涙頂戴はありふれたものなんだけど、この映画の場合はひと味違う。○○が死ぬことに必然性がある。そこで死ぬのは○○でなければ意味がない。
単に目の前の仲間を守りたいからではなく、なんとか『ヤマト』を地球に返すために死ぬ。うまく言えないなー。大のために小を犠牲にする、というシーンは少なくないんだけど、その「大」というのが「ヤマト」ではなく「人類」なんだよね。人類を救うために、ヤマトはどうしても地球に帰らなきゃならない。だから自分が死んででもヤマトやほかのクルーを守る、みたいな。まあ行き過ぎると神風特攻礼賛になりそうで危険だけど、フィクションの中では大儀のための自己犠牲ってひとつの美学だと思うんだよね。そこに燃える。

・とにかく熱い(濃厚にネタばれ)
ストーリーについてごちゃごちゃ感想を述べてみたけど、何でこんなにヤマトが面白かったかは理屈では説明できない。なんというか、能書きは抜きにして人の心をわくわくさせるシーンが満載なんだな。波動砲発射とかさ。ヤマト全然知らないのに「波動砲キターーーー!!!」って興奮したもん。徐々にエネルギーが充填され、光の粒子が発射口に集まっていく様子。おもむろに閃光防御のサングラスをかけるクルーたち。超カッコイイ。
気絶した森雪を古代の戦闘機が宇宙空間でキャッチ→ガミラス大群、ヤマトへ神風特攻→島大介の神スキルによってヤマト緊急回避→横倒しになったヤマトに古代戦闘機が滑り込む→間髪入れずにヤマトワープ!の一連の流れがやばかったわー。ランダムワープのイベントも好き。
あと古代進のイスカンダル上陸作戦、あの巨大なヤマトがイスカンダルの上空に垂直になって現れ、古代を迎撃するガミラス兵器を一瞬で殲滅させた後ワープで離脱するところ。いやー興奮したね!それから真田さんと斉藤さんの雄姿だな。斉藤さんの弁慶往生に感動したに感動した。

そんなわけで『SPACE BATTLESHIP ヤマト』、本当に面白かった!
VPS