2012年2月29日水曜日

ツレがうつになりまして

こちらもだいぶ前に見た映画の感想。

しかし最近映画見てないな。学生料金のうちにもう一度くらい映画館に行きたいんだが。

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原作の漫画はどこかで読んだことがある。

主役の夫婦が宮﨑あおい&堺雅人と聞いて、大河ドラマ『篤姫』が大好きだったので観に行った。

全体の感想としてはまあまあ。特に心揺さぶられる展開もなく、宮﨑あおいと堺雅人の夫婦っぷりを2時間愛でる感じ。

堺雅人が演じるウツ旦那がハマってた。

ウツ経験者やその家族の方々は身につまされるところだと思うのでこういう物言いは不謹慎かもしれんが、萌えた。

宮﨑あおいはとてもかわいらしかったが、かわいすぎるのが難点。

あんな天使みたいな嫁がいてウツになる男がおるかい。

美人でもいいけど、もうちょっと生活にくたびれた感じがほしかったな。

いや、髪ぼさぼさだったり普段着が地味だったり、「くたびれ感」を演出する意気込みは伝わってきたんだが・・・まだ足りない。生活の垢が足りない。

住んでる家が豪華なのも現実味がない一因かも?いや、結婚5年目の30代?ご夫婦が一般的にどんな家に住んでるのか知らないけど。

なんか立派な和風の一軒家で、「結婚5年目の夫婦の新居」というより「夫婦どちらかの実家」って雰囲気だった。

結構広いし、二人暮らしの割に部屋がいくつもありそうだったし。

原作がそうなってるんならまあいいんだけど、賃貸とかもっと慎ましい感じの方が感情移入しやすい気がする。

ハル(宮﨑あおい)が幹夫(堺雅人)を「ツレ」と呼ぶのは原作もそうだっけ?

第三者に「うちのツレが云々」と言うならまだ分かるが、自分のツレに「ツレ」と呼びかけるのはおかしくないかい?夫を「夫」と呼ぶのと同じじゃない?

まあ夫婦のことだし、好きに呼び合ったらいいけどさ。

幹夫が自分の心身の不調を覚えたとき、「ハルさ〜ん」と普通に妻に相談するところがよかった。こういう病気を取り扱ったフィクションで、夫婦仲が芳しいのはそんなに多くない気がするので。

ハルはウツの幹夫に対してすごく思いやりが深いし色々頑張ってるんだが、そのせいで幹夫のウツが発覚する前の無神経っぷりとか、仕事のストレスでウツの幹夫に当たるところなんかが取ってつけたように見えた。

いやもちろん、「元々無神経だったのが、ウツ診断をきっかけに改心した」「幹夫に当たってしまうほどハル自身追いつめられていた」というフォローはできるんだけど、そこの描き方が足りない気がする。

「仕事をください!」のシーンも、そこだけ悲壮感漂わせてもなんだかなぁ、って感じだった。

原作はウツ患者とその配偶者の日常をあえてコミカルに描いたものだったけれど、映画の方は漫画を実写化したというより、その漫画を作るに至った夫婦の苦悩の日々を描いていたように思う。

その割には全体に軽くてほのぼのとしているので、病気への掘り下げが今ひとつ中途半端だった。ところどころ「こりゃ大変だわぁ」と同情するシーンもあるんだけどね。

全体にのんびり淡々としているだけに、天井のシミの伏線にはぞぞぉーっと来た。あと最後の公園から幹夫が姑に電話するシーン、あれどう考えても自殺フラグだよね?ウツの婿からあんな電話来たら、慌てて娘に連絡取るよ。

それから幹夫の性格が神経質すぎるというか、強迫的というか、なんか初めから病気っぽいので、どれがウツの症状なのかわからなかった。

まあそれが現実に近いのかもしれないけど・・・でもあれでは「ウツは誰でもかかりうる心の風邪のようなもの」という映画のメッセージが伝わりにくいと思う。「ウツは異常に神経質で特殊なこだわりを持つ人間が患いやすい精神疾患」って思っちゃうよ。

原作の方がウツになる前後の書き分けがはっきりしてて分かりやすかった。

2012年2月28日火曜日

BLACK SWAN


結構前に観た映画だけど、そう言えば感想書いたのにブログにアップしてなかったと思って、今さらながら掲載。

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ナタリー・ポートマンのバレエにすごく興味があってずっと観たかったんだ。

てっきり「純情な優等生であるバレリーナが、清楚な『白鳥』はまだいいとして妖艶な『黒鳥』が踊れずに苦悩するが、いろいろ経験して一皮むけ、最終的には見事舞台『白鳥の湖』を踊り切る」という話なのかと思ってた。

ので、ひでぇ目にあった。

グローイングアップものかと思いきや殺人系サスペンスの様相を呈してきて、それがホラー映画風味になって、最終的にはサイコスリラー(なんて言葉があるのかわからんが)になった。正体不明の他人あるいは霊的なものが主人公ニナを追いつめているのかと思いきや、結局ニナ自身の葛藤だったというね。それをまるでホラー映画のように、観客の恐怖心を煽るためだけにあらゆる演出を凝らして表現していて、そこに感心した。マジで怖かったけど。スプラッタはないんだけど、じみ〜に痛そうな描写が多くてさ・・・うわああぁあぁぁぁ・・・って感じだった。

まあでもある意味、「純情な優等生であるバレリーナが、清楚な『白鳥』はまだいいとして妖艶な『黒鳥』が踊れずに苦悩するが、いろいろ経験して一皮むけ、最終的には見事舞台『白鳥の湖』を踊り切る」は間違いではなかったな。むしろ、まさにそういう話だった。

小道具や人物、あるいは特定の行為?などを何らかのメタファーとして映画全体に散りばめる手法に唸らされた。ベスの口紅とかさ。あんまり巧妙なんで、気づいてないものもたくさんあると思う。映画のお約束や宗教的なものも勉強しないとわからないかも。

しかしナタリー・ポートマンは圧巻だったな。まず、バレエ。彼女は12歳までバレエをやってたらしく、またこの役のために1年前からトレーニングしたらしい。やっぱ女優ってすごいよ。一般人が10年以上ブランク空けて1年やそこいらで「白鳥」が踊れるかよ。無論努力も才能のうちという意味で。私はバレエへの造詣はなきに等しいのでわからないけれど、プロのダンサーから見ても納得の仕上がりだそうだ。でも門外漢の私にしたら、あの足首のぐねぐねした関節の動きからしてもうバレリーナにしか見えなかったよ。

それに演技もまた素晴らしかった。ナタリー・ポートマンってかわいいよね。可憐でさ。オードリー・ヘプバーンとか、日本人なら宮沢りえとか、そっち系。そんな彼女が映画の9割では眉間にしわを寄せて悲壮な顔してんだよね。可哀想すぎる。しかしながら徐々に彼女の黒鳥が姿を現してきてさ。クライマックスの白鳥から黒鳥に様変わりするシーンを顔だけで表現してたのがすごい迫力で、最高にグロテスクだった。

監督ルトワの役もいい味出してたね。ひでえパワハラセクハラじじいなんだけどさ。山岸凉子のマンガ『黒鳥』の監督と全く同じというか、お盛んではあるんだけど彼自身は真摯に芸術と向き合い、舞台作りに心血を注いでいてさ。セクハラと演技指導の境目がうやむやっていうか、ニナを抱きたいというより最高の作品を作り上げたいという欲望が勝るというか。いや、最低な男だけどね。

リリーもよかった。プリマの座を虎視眈々と狙っているライバルであり、ニナとは対照にセクシーで自由奔放な女。でも彼女が実際どこまでニナの足を引っ張っていたのか、そもそも彼女にその意思があったのか、よくわからなかった。というのも、リリーがニナにしたことは全てニナの被害妄想とも取れなくもないから。明らかにニナの妄想とわかるシーンでもリリーが頻繁に登場しているし。非道徳的でバレエにも性にも貪欲なリリーだけれど、ニナに対してはプリマとして正々堂々と勝負していたのかもしれない。夜遊びに誘い出したのも、煮詰まっているニナをリリーなりのやり方で解放してあげようとしたのかもしれない。

諸悪の根源は母だと思う。バレリーナとして成し遂げられなかった夢を娘に託し、いざ娘が自分を越えようとすると嫉妬し、愛情と言う名目で娘を束縛していた女。でも最後の最後にニナが舞台に立つのを止めたのは、純粋な愛だったと思うんだよね。ラストで「白鳥の湖」を踊り切った娘に涙を流して拍手を送っていたのが切なかった。

「あなたは病気よ、役に潰されるわ」ってニナを止めるんだけどさ。もっと早く気づけよ。遅すぎだよ。だってもうニナはその母の言葉さえ「私がママを越えるのを妨害しているんだ」としか取れなくなってしまったもの。ニナは「実力不足でバレエをやめたのを、娘(ニナ)を妊娠したせいにしてプライドを保っている」ことを見抜いているんだよね。

あとニナの憧れの存在であるプリマ、ベスが印象に残った。結局ニナがベスをプリマの座から追い落とす格好になってしまうんだけどさ。爪ヤスリで自傷するシーンは一体なんだったんだろう。ベスを刺したのはニナだったのか?ベス自身だったのか?あるいはベスの負傷自体ニナの妄想?

結局、新人プリマがその重圧に耐えきれず、デビュー作の公演初日で死んだってだけなんだけどね。いや一応死んだかどうかはわからんし、一命を取り留めたもののバレエは続けられない体になるかもしれんし、意外とけろっとダンサーに復帰するかもしれんし、そこは皆さんのご想像にお任せしますってことなんだろうけど。でも現実のプリマ達はその重圧を乗り越える素晴らしい実力、精神力を持っているんでさ。それで数えきれない舞台をこなすんであってさ。ニナは要はむいてなかったってことなんだよね。周りの大人に恵まれなかった不幸も含め。可哀想だれど。

でも「プリマの器でないのに抜擢されちゃった不幸な女の子」をあの手この手でえげつなく描いたという点で、この映画は一見の価値あり。グロテスクで悲しくて、それでいて美しい作品だった。

VPS