2015年11月16日月曜日

風立ちぬ

2年前に観て感想を書いたんだけど、そういえばブログには貼り付けていなかったので、いまさらながら。

・全体 

零戦設計者の堀越二郎と、彼を主人公にした物語「風立ちぬ」を執筆した堀辰雄、二人のキャラクターを混ぜ合わせ、ジブリらしく料理した架空の人物が主人公「堀越二郎」。彼が零戦を生み出すまでの半生をファンタジー色豊かに描き出した映画『風立ちぬ』。 
ネット評では賛否両論なのであまり期待をしないで観に行ったが、予想を遥かに上回る良作だった。超泣いた。 
前に書いた我的ジブリランキングに当て嵌めると 


神作 ラピュタ 豚 トトロ 魔女宅 
良作 風立ちぬ←new! ナウシカ 耳すま 千と千尋 もののけ 
凡作 狸 火垂る ポニョ ハウル 
駄作 アリエッティ ゲド 


このへん。 ハウル→ポニョ→アリエッティと観てきて、「もうジブリは観なくていいや」とガッカリしていたところへ、最後の最後に素晴らしい映画をつくってくれたよ宮崎監督。 
懐古廚と誹られるかもしれないが、昔のジブリ映画はエンターテイメントに徹してて、すごくおもしろかったんだよね。それがもののけ以降、どうも説教臭くなったというか……それでも千尋までは好きだったんだけど、ハウルやポニョは「難解なものほど崇高な芸術(どやっ)」みたいな自己陶酔を感じてしまって、私には向かなかった。 それが、今回の『風立ちぬ』はかつてのジブリを思わせるエンターテイメント作品で本当に面白かった。雰囲気的には『紅の豚』に近いかな。「戦争」「戦闘機」「男のロマン」という共通点以上に似ている気がした。 あと「制作スタッフが楽しんで作っている」という姿勢を感じてすごく気持ち良かった。客を楽しませつつ、かといって自己陶酔に陥って客に感動を押し付けることはせず、誠実に「良い作品」を作っている感じがした。 


・映像

 
安定の宮崎作品だった。とても美しかった。映画館で観る価値有り。 遠景や水の流れがすごくキレイ。立体感のあるカメラワークも素晴らしい。 
この作品は現実の合間にちょいちょい二郎の夢が差し挟まる構成なのだが、その描き分けが良かった。「耳すま」ほど露骨ではないけども、ちょっとメルヘンチックというか、パッと見現実世界の風景と変わらないんだけどもそこはかとなく不条理で、不気味なような心地良いような。 
その不条理的表現は夢の世界だけではなくて、例えば関東大震災の描写にも用いられていた。コミカルな描写がかえって凄みを増し、精神的にクる画だった。客観的事実と二郎の想像を描き分けていると言うより、全編通して「二郎の主観的映像」と捉えるべきか。私は大震災を経験していないけれども、実際遭遇したらあんな感じで「現実とは思えない不条理な映像」として記憶するかもしれない。 


二郎は幼少期から成人に至るまでずっとイケメンで、ヒロイン菜穂子は可憐な美人に見えたので、結局私はジブリ絵が大好きなんだろう。 


・音声

 エンディングテーマ「ひこうき雲」は良かった。CMでも流れていて、「昔のユーミンの歌かー」なんて思いながら聞き流してたけど、映画の最後の最後にこの曲が流れてきたときはもう滂沱の涙だった。 

あと以前から話題になっていた、飛行機等の効果音を肉声を加工することで表現するという演出。「奇をてらってるだけ」という批判もあるが、私は大正解だったと思う。 汽車とか小川のせせらぎとか現存する「音」ならまだしも、旧日本軍の戦闘機、関東大震災の地鳴り、そういうものは録音できない。でも人の心の中にその音のデータが残ってる。だからそれを人が再生する。 写実性は大して追求していない。それよりも 「もーすごかったんだから!ヴーーーーーって近づいてきたと思ったらバアンっ!ていってドバババババっ!てなって大変だったんだよ!」 みたいな人の主観を大事にしている。だから「本物」よりも精神的にクる。 試作機のテスト飛行のシーンなんかすごく興奮したし、関東大震災の地鳴りや火事が迫ってくるときのおどろおどろしさは人の声ならでは。 


・声優庵野 

「あのエヴァの監督を主人公の声優に大抜擢!!」なんて前評判はあったが、それはそれは酷いもんだった。まあ老宮崎駿が「彼がいい!」って言うんだから、その最悪の演技も含めて『風立ちぬ』という作品なんだろうが……。 演技過剰なイケメンボイスが二郎のイメージに合わない、だから既存の声優は使いたくない、という気持ちはわからんでもないけどさ。 ちゃんとそういうオーダー出せば声優だって対応してくれるよ。だってプロなんだし。 宮崎駿は知らないだろうけど、今時の声優の幅広い演技っていうのは本当にすごいよ。庵野にしちゃったのはすごくもったいなかったと思う。 
またヒロインとのラブラブちゅっちゅシーンがさぁ……切なくて泣けるシーンなんだろうが、スタジオで若手女優に「大好きだ」「キレイだよ」と吐息混じりに囁く庵野を想像してしまってもう気持ち悪いってレベルじゃなかった(笑)


・ストーリー


ネット評では「難しい」「説明不足」という意見が多かったけど、私はそうは思わなかった。すごく筋のはっきりした良い作品だと思う。 まあただ、子どもには難しいかもね。それこそ「紅の豚」的な難しさというか。 ポニョやハウルの方がよっぽど難解だと思う。 
私は零戦をはじめ戦闘機のことはほとんど知らないし、戦争に関することも一般常識レベルの知識すら持っていない。 それでもこの作品は面白かった。もちろんちゃんと勉強して観に行けばさらに面白さがわかるだろうし、その道のマニアにはこの作品のあまりにも緻密、むしろ偏執的な考証に鳥肌が立つらしいのだが。 

伝説の「零戦」を開発した男のことだからさだめし「鬼畜米英!」「お国のために最高の飛行機を開発してやる!」というキャラかと思いきや全く違う。実際はどうだったか知らないけど、映画の「堀越二郎」はそうではなかった。 

ただただ純粋に自分の求める「美しい飛行機」を作り出すことに執着し、自分の全てを賭けるまさにエンジニア。技術屋や科学者特有の武士道とエゴイズムに胸を打たれる。 


また脇を固めるサブキャラがいいよね。天才堀越二郎の周囲には厳しくも理解ある上司、大学時代からの朋友でありライバルでもある同僚、そして二郎を慕い、二郎同様熱い志を持つ部下たちがいて、チームで零戦開発が実現した。ええ話や。 
またロマンとロマンスの力配分が絶妙だった。『風立ちぬ』は他のジブリ作品と違って、男女のラブイチャちゅっちゅを包み隠さず描いているのだが、なんというか……男女が出会い、信頼関係を育み、慈しみ労り合う夫婦になるという過程が丁寧に丁寧に描かれていたものだから、嫌味に感じなかった。二郎の飛行機に賭ける情熱とヒロイン菜穂子への愛情が、お互い邪魔する事無くいい感じに作用し合ってて、脚本上手いなぁと思った。


ラストの、数多の戦闘機が天に召されるシーンは「紅の豚」を彷彿とさせた。
カプローニの「君の十年はどうだった?」というセリフで泣いた。

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