2012年2月28日火曜日

BLACK SWAN


結構前に観た映画だけど、そう言えば感想書いたのにブログにアップしてなかったと思って、今さらながら掲載。

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ナタリー・ポートマンのバレエにすごく興味があってずっと観たかったんだ。

てっきり「純情な優等生であるバレリーナが、清楚な『白鳥』はまだいいとして妖艶な『黒鳥』が踊れずに苦悩するが、いろいろ経験して一皮むけ、最終的には見事舞台『白鳥の湖』を踊り切る」という話なのかと思ってた。

ので、ひでぇ目にあった。

グローイングアップものかと思いきや殺人系サスペンスの様相を呈してきて、それがホラー映画風味になって、最終的にはサイコスリラー(なんて言葉があるのかわからんが)になった。正体不明の他人あるいは霊的なものが主人公ニナを追いつめているのかと思いきや、結局ニナ自身の葛藤だったというね。それをまるでホラー映画のように、観客の恐怖心を煽るためだけにあらゆる演出を凝らして表現していて、そこに感心した。マジで怖かったけど。スプラッタはないんだけど、じみ〜に痛そうな描写が多くてさ・・・うわああぁあぁぁぁ・・・って感じだった。

まあでもある意味、「純情な優等生であるバレリーナが、清楚な『白鳥』はまだいいとして妖艶な『黒鳥』が踊れずに苦悩するが、いろいろ経験して一皮むけ、最終的には見事舞台『白鳥の湖』を踊り切る」は間違いではなかったな。むしろ、まさにそういう話だった。

小道具や人物、あるいは特定の行為?などを何らかのメタファーとして映画全体に散りばめる手法に唸らされた。ベスの口紅とかさ。あんまり巧妙なんで、気づいてないものもたくさんあると思う。映画のお約束や宗教的なものも勉強しないとわからないかも。

しかしナタリー・ポートマンは圧巻だったな。まず、バレエ。彼女は12歳までバレエをやってたらしく、またこの役のために1年前からトレーニングしたらしい。やっぱ女優ってすごいよ。一般人が10年以上ブランク空けて1年やそこいらで「白鳥」が踊れるかよ。無論努力も才能のうちという意味で。私はバレエへの造詣はなきに等しいのでわからないけれど、プロのダンサーから見ても納得の仕上がりだそうだ。でも門外漢の私にしたら、あの足首のぐねぐねした関節の動きからしてもうバレリーナにしか見えなかったよ。

それに演技もまた素晴らしかった。ナタリー・ポートマンってかわいいよね。可憐でさ。オードリー・ヘプバーンとか、日本人なら宮沢りえとか、そっち系。そんな彼女が映画の9割では眉間にしわを寄せて悲壮な顔してんだよね。可哀想すぎる。しかしながら徐々に彼女の黒鳥が姿を現してきてさ。クライマックスの白鳥から黒鳥に様変わりするシーンを顔だけで表現してたのがすごい迫力で、最高にグロテスクだった。

監督ルトワの役もいい味出してたね。ひでえパワハラセクハラじじいなんだけどさ。山岸凉子のマンガ『黒鳥』の監督と全く同じというか、お盛んではあるんだけど彼自身は真摯に芸術と向き合い、舞台作りに心血を注いでいてさ。セクハラと演技指導の境目がうやむやっていうか、ニナを抱きたいというより最高の作品を作り上げたいという欲望が勝るというか。いや、最低な男だけどね。

リリーもよかった。プリマの座を虎視眈々と狙っているライバルであり、ニナとは対照にセクシーで自由奔放な女。でも彼女が実際どこまでニナの足を引っ張っていたのか、そもそも彼女にその意思があったのか、よくわからなかった。というのも、リリーがニナにしたことは全てニナの被害妄想とも取れなくもないから。明らかにニナの妄想とわかるシーンでもリリーが頻繁に登場しているし。非道徳的でバレエにも性にも貪欲なリリーだけれど、ニナに対してはプリマとして正々堂々と勝負していたのかもしれない。夜遊びに誘い出したのも、煮詰まっているニナをリリーなりのやり方で解放してあげようとしたのかもしれない。

諸悪の根源は母だと思う。バレリーナとして成し遂げられなかった夢を娘に託し、いざ娘が自分を越えようとすると嫉妬し、愛情と言う名目で娘を束縛していた女。でも最後の最後にニナが舞台に立つのを止めたのは、純粋な愛だったと思うんだよね。ラストで「白鳥の湖」を踊り切った娘に涙を流して拍手を送っていたのが切なかった。

「あなたは病気よ、役に潰されるわ」ってニナを止めるんだけどさ。もっと早く気づけよ。遅すぎだよ。だってもうニナはその母の言葉さえ「私がママを越えるのを妨害しているんだ」としか取れなくなってしまったもの。ニナは「実力不足でバレエをやめたのを、娘(ニナ)を妊娠したせいにしてプライドを保っている」ことを見抜いているんだよね。

あとニナの憧れの存在であるプリマ、ベスが印象に残った。結局ニナがベスをプリマの座から追い落とす格好になってしまうんだけどさ。爪ヤスリで自傷するシーンは一体なんだったんだろう。ベスを刺したのはニナだったのか?ベス自身だったのか?あるいはベスの負傷自体ニナの妄想?

結局、新人プリマがその重圧に耐えきれず、デビュー作の公演初日で死んだってだけなんだけどね。いや一応死んだかどうかはわからんし、一命を取り留めたもののバレエは続けられない体になるかもしれんし、意外とけろっとダンサーに復帰するかもしれんし、そこは皆さんのご想像にお任せしますってことなんだろうけど。でも現実のプリマ達はその重圧を乗り越える素晴らしい実力、精神力を持っているんでさ。それで数えきれない舞台をこなすんであってさ。ニナは要はむいてなかったってことなんだよね。周りの大人に恵まれなかった不幸も含め。可哀想だれど。

でも「プリマの器でないのに抜擢されちゃった不幸な女の子」をあの手この手でえげつなく描いたという点で、この映画は一見の価値あり。グロテスクで悲しくて、それでいて美しい作品だった。

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