2016年5月24日火曜日

「軍艦『伊吹』の建造」2

前の記事では簡潔にと言いながら随分冗長な文章になってしまったが、ここからはさらに冗長に。

1. リアリティがすごい

どこまで史実で、どこからフィクションなのか全くわからない。
むろん、私が浅学のため史実をよく知らないというのも大きいんだけど。
浅学過ぎて「へー、樺太にも鎮守府があったんだー」なんて信じてしまったじゃないか。
いや、私を嗤うのは待って欲しい。なにも
「むかしむかし、樺太には旧日本海軍の鎮守府がありました。」
って書いてあったのを鵜呑みにしたわけじゃない。
樺太に鎮守府が創設されるに至った背景、樺太ならではの苦労(冬は流氷で固まるから砕氷艦に航路を開いてもらわないと動けないとか、冬期は屋外の作業ができないため工期の短縮はほぼ不可能とか)、鎮守府ができたことで栄え、戦争状態に入ったことで活気を失う豊原の様子が、まるで見てきたように描かれているんだよ。

今でもどこからフィクションなのかわからない。
造船施設があったのは本当なの?砕氷艦はつくってたの?
大泊飛行場はあったの?それもフィクションなの?
そもそも大型対空軽巡洋艦『伊吹』はフィクションなの?
フィクションなら、扉絵の110号艦の図は既存の資料ではなく完全自作なの?
B67計画は?一応そういうものはあったの?それともBも67もテキトーにつけたの?

わけがわからないよ……

前作(同じく『伊吹』を描いた同人作品。著者は別。)を読めばわかるのかな……わかんねーだろうな。

というわけで、途中から「全部フィクション。この作品はファンタジー。」と割り切って読むことにした。

でもこの作品の中にも確実に「フィクション」ではない部分がある。
それは「フネのつくり方」。
計画、設計、模型を使った試験、艤装の開発を担当する他機関との連携、原図おこし、盤木の組み立て、ぎょう鉄、溶接、進水、海上での建造、艤装、種々の試験、そして竣工。このほかにも数多くの工程があり、その全てに各分野のスペシャリストや、この道何十年のベテラン職人が携わり、数えきれない人々の力でひとつのフネが完成する。

艦これだったら戦艦大和ですらせいぜい8時間、バーナーで炙れば一瞬でできちゃうのにな!

それをマニアがマニアの言葉で説明するのではなく、私のようなズブの素人にもわかる平易な言葉で、懇切丁寧に、嫌味なく解説してくれる。それも単なる箇条書きではなく、フネづくりに携わる人々が実に生き生きと、体温を持ったユーモラスな人間として描かれている。

喫水下の隔壁ができてくると、おいそれと移動できなくなり、担当箇所に弁当を持ち込んで一日籠城を決め込む者も少なくない、とか。
進水は後ろ向きですべり台を降りるように、艦尾から海に入るが、その際海に入った艦尾が浮力を受けて浮くため、まだすべり台の上にある艦首がすべり台に押し付けられる形になる。そうなると艦首は細くて脆弱なので、破損してしまう。だから進水時はあえて艦尾を重くして浮きを防ぎ、艦首が破損しないようにする。とか。

学んだ。

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